「ありがとう」の気持ちを伝えたい。その想いが人生を変えた

20歳の時、会社の同僚とオーストラリアへ旅行をする機会があり、滞在中、運転兼ツアーガイドとして付き添って下さった現地の女性に、大変お世話になりました。帰国の前、感謝の気持ちを、心を込めて伝えたい、と努力をしてみたのですが、当時の私には、自分の想いを英語でうまく表現する事が出来ません。とてももどかしくて、情けなく感じてしまいました。

「ありがとう」の気持ちを伝えたい。その想いが人生を変えた 私は、漠然とですが、その頃から国際キャリアへの憧れを感じ始めていました。それなのに、自分は英語で自分の気持ちを相手に伝える事すら出来ない・・・。帰国した私は、一念発起をし、英会話学校に通い始め、必死になって自分の英語力を磨く努力を続けました。
 
2年が経ち、私の英会話力は確実に向上。そんなある日、英会話学校の先生から留学を薦められました。「貴方の基本英語力はもう充分なレベルにあります。今の貴方に必要なのは実戦での経験です。人生観が変わる筈ですよ」。正直、自分にそこまでの力があるとは思った事もなく、大変悩みました。しかし「自分を試してみたい」という想いは日に日に強くなり、ついに私は、9ヵ月のボストン短期留学を決意したのです。
 
先生の言葉通り、ボストンでの9ヵ月間は私の視野を大きく変えました。ホスト・ファミリーの方に恵まれた楽しい毎日はもちろんの事、大学での勉強、英会話、多くの友人など、それまでの人生では考えた事もなかった貴重な経験と自信を得る事が出来たのです。
 
帰国後、アドバイスを頂いた先生への感謝の気持ちと、恩返しの想いを込めて、英会話学校に講師として就職し、後進の生徒の方に、自分の経験を伝え、留学を薦めました。すると、同時に自分への挑戦意欲も更に高まって来たのです。「今度は海外で仕事をし、国際キャリアを築きたい・・・」。そんなある日、三越CRプログラムの存在を知りました。私は、一瞬の躊躇もせずにプログラムへの参加を決意していたのです。

文化の違いを認識する

日本代表として日本館で勤務する、CRプログラム参加者の仕事は「英語で接客する」という、一元的なものではありません。CR契約社員は、全員、世界中から御来訪されるあらゆる年代のゲストの方々に、日本の文化を紹介し感動を与えるという、難易度の高いミッションを担っているのです。

文化の違いを認識する 日本の文化を理解・習得し、「日本人らしさ」を常に心掛けなくてはいけません。カジュアルな米国社会での生活ですが、職場では「カジュアルな日本文化」などはもっての他です。あくまでも、本物の日本文化をお伝えし、真心のおもてなしを御提供します。お辞儀ひとつとっても、入社教育期間中、三越アカデミーで徹底的な教育を受けます。多くのゲストにとって、私たちは「生涯初めて出会う日本人」であり、まさに「生で接する初めての日本文化」的存在となる訳です。
 
日本館では、毎日、日本文化への質問攻め。漢字の意味を尋ねられたり、日本文化独自の商品を手にとって怪訝な顔で説明を求められます。接客行動基準の一環として、頻度の多い質疑応答に関しては「模範解答集」が作成されており、入社教育期間で徹底的に覚え込みます。しかし、現場では、この基本知識を自分流にアレンジして、丁寧に御説明する事が重要です。
 
例えば「孫の手」。単に「バック・スクラッチャー」では文化的背景が伝わりません。私は「孫の小さな手で背中をさすって貰う時の嬉しさ」を、商品特性と名前に連動させて御説明していました。孫を愛する想いは、文化を超えた人類共通の想い。どこの国のお客様も「納得!」とばかり、大きく頷いておられました。日本代表として日本文化の伝道を実現するこのような一瞬は、大きな達成感を感じる、誇らしい一瞬です。

キーワードは「一期一会」

欧米のゲストの中には、お待ち頂くのが苦手な方が少なくありません。他のゲストを接客している間も「袋を下さい」「これを教えて下さい」と、半ば割り込むような形で話しかけてくるのです。

キーワードは「一期一会」 マナー違反と言ってしまえばそれまでですが、それぞれの文化で「この位なら・・・」という許容範囲が異なるという事かと思います。しかしながら、着任当初は、この対応には本当に困惑し、悩んでしまいました。
 
私は上司や同僚と相談する機会を持ち、「異文化間の価値観・習慣の違いに如何に対応するか」を話し合いました。異文化を否定するのではなく、異文化を理解し適切な対応を考える。そうしてこそ、ゲストの方にも日本文化を理解して頂ける訳ですので、日本代表としては、避けては通れない課題です。
 
話し合いの中で、私たちは「米国三越が定義する日本代表のミッション」へ、再び立ち戻りました。私たちは「日本人のプロ、接客のプロ」として「一期一会の心」を胸に、世界中のゲストを「真心のおもてなし」でお迎えし、「感動を与える」使命を担っております。私は、ここに解決の糸口を見出しました。
 
私たちは「一期一会の心」で、お客様と接している訳ですが、この貴重な一瞬に割り込むゲストもまた「一期一会」のゲストです。「失礼なゲスト」と考えるのではなく「一期一会のゲスト」と考えれば、自ずと接し方は決まって来ます。心を込めて「お待ち頂く旨を、より丁寧にお伝えする」事により、そのゲストも「少し待てば丁寧に対応して貰える」事実を理解し、気分を害される事なくお待ち頂けるのではないかと考えました。この対応に「同僚からの援護サポート」などを具体的に加え、接客行動基準のひとつとして盛り込んだのです。
 
日本代表は、まず、日本文化を理解しなければなりません。日本に生まれ育ったから、日本文化を理解しているとは限らないのです。奥の深い日本文化を積極的に学び、自分の知識として吸収する必要があります。
 
実際に、日本文化を世界中のゲストにお伝えする際は、先方の文化に敬意を表し理解する事が重要です。「理解して頂く前に、理解する」。この時、異文化間に相互信頼関係が生まれ、文化を超えた相互敬意が生まれます。これが「心を開いたコミュニケーション」であると、私は悟りました。
 
私は、三越CRプログラムを通じ、国際舞台で活躍を続ける為の、大切な原則原理を学んだのです。

10年間、走り続けて辿り着いた「私の居場所」

10年間、走り続けて辿り着いた「私の居場所」

現在、私は日本のシルク・ドゥ・ソレイユに在籍しております。70人を超える世界各国のアーティストの、日本での生活支援をするのが私の任務です。アーティストの御家族の方を含めると、100人余りの方が世界各国から参集し、慣れぬ日本での生活を送っておられます。
 
アーティストの皆様が、安心して演技に集中出来る環境を創り出す事が私の使命。食事の話、電車の乗り方、お子様の医療問題など、様々な問題に対し「日本代表」として、丁寧に対応をさせて頂いております。
 
現在の仕事の中で実感している事は、三越CRプログラムで学んだ「原則原理」の重要性です。日本の文化を理解した上で、先方の文化を理解し、心を開いて敬意をもって接する。それによって、文化・国境を超えた相互信頼関係が生まれ、真のコミュニケーションが生まれる・・・。私の現在の任務遂行を支える、重要な原則原理であり、私の生涯の財産です。
 
上司も欧米各国から赴任されており、日本館での楽しい職場の延長線のような毎日を過ごしています。日本代表・第2幕と言ったところでしょうか・・・。
 
思い起こせば、20歳の春、オーストラリア旅行で感じたもどかしさを起点に、今日まで10年間、突っ走って参りました。ボストン、フロリダを経て、辿り着いた私の居場所がシルク・ドゥ・ソレイユです。素敵な上司と同僚の方に恵まれ、充実した日々を送っています。今後も「日本代表」としての自分の役割を自覚し、最善を尽くし、職務を続けて参りたいと考えています。